病院からのお知らせ

当院の新型コロナウイルス感染症対策について

諏訪中央病院の新型コロナウイルス感染症対策

副院長
新型コロナウイルス感染症対策会議責任者
高木宏明


 地域の皆さまに当院における新型コロナウイルスの感染対策の考え方とその主な内容をお話します。地域の方々からたくさんのご意見、ご質問、ご提案、時にご批判もいただいており、それにまとまった形でお応えしようとするものです。

 最初は基本的・一般的事項のお話をして、後半当院の状況の説明になります。そこに説明させていただく内容は、地域での感染の蔓延状態により変遷していくものでありますので、あくまでも現時点でのものとご理解ください。

 やや長い文章となりますがお読みいただけたら幸いです。

 なお、参考として長野日報に連載の当院・玉井医師のコロナウイルスに関するイラスト入りの説明書(当院と茅野市のホームページでも公開)および2020年5月3日付長野日報の「おらほの病院」もご覧いただければと思います。


【1】コロナウイルスの感染経路と感染対策の基本
 コロナウイルスはもともとありふれた風邪の原因ウイルスです。でもこれまでコロナウイルスはその遺伝子を変異させてSARS(サーズ)やMERS(マーズ)を引き起こしてきました。そして今回の変異はCOVID-19(コビッド-ナインティーン)として現れました。

 しかし、顔つきがやや恐ろしいそれに変わったとしても、感染のしかたは基本的にはもともとのコロナウイルスと同様で、飛沫(ひまつ)感染と接触感染が中心です。

1)飛沫感染

 飛沫はしゃべったとき、咳やくしゃみをしたとき鼻や口から飛び出すしぶきで、これにウイルスが含まれていて感染していきます。このしぶきが人の口や鼻に付着するとその粘膜から感染を起こします。感染の最大の入り口は口と鼻というわけです。

 飛沫は1~2メートル以内に床・地面に落ちることも考えますと、飛沫感染を防ぐ方法は以下のようになります。

①人から1~2メートル以上離れる(ソーシャル・ディスタンス)

②人に飛沫を飛ばさないようにマスクをする(咳エチケット)

③こちらがマスクをしていればうつされないかどうかについては実は確実なことは証明されていませんが、
 感覚的にはマスクで口・鼻をおおうのは有効のように思われます。

④眼の粘膜についた飛沫からの感染もありうる、とされていますが口・鼻ほど明確には言われていま
 せん。ウイルスも好き嫌いがあって、口や鼻の粘膜の方が侵入しやすいと言えるのかもしれません。

2)接触感染

 ちなみにコロナウイルスは皮膚からは感染しません。傷のない普通の皮膚はウイルスに対して強力なバリアとして立ちはだかります。なので、ウイルスをたっぷり含んだ鼻水や痰が手にべったりついたとしてもそれで感染は起きません。

 でも、ではなぜ手を洗え、と言われるのでしょうか。それは手がウイルスの運び屋になるからです。

 人の口や鼻に到達できずにむなしくそこらへんに付着した飛沫の中のウイルスは一定時間が経つと感染力を失ったり壊れたりしますが、まだピンピンしているうちに誰かの手がそこに触れればその手に付着します。そしてその手がその人の口や鼻に触れば・・・。

 人は1時間に20回以上無意識に顔を触っていますが、こうして感染が起きてしまうのです。ウイルスはその機会を狙っているとも言えます。

 ですのでこうした感染ルートを遮断する方法は手洗いに尽きます。

 テーブルやパソコンのキーボード、ドアノブ、エレベーターのボタン、手すりなどを掃除することは有効ですが、手を洗うことが感染のリスクを最も下げる方法となります。

 飛沫感染と接触感染が同時に起きやすい、つまり危ない場面があります。それは複数で会食をする時です。

おしゃべりをしながらの会食で飛沫が飛びます。それが直接鼻・口に入ります。飛んだ飛沫が手や箸や食べ物について、結局鼻や口に入ります。流行期の「楽しい会食」は実はリスクを伴うものだと知っておく必要があります。

以上から言えることは、飛沫が直接であれ、手を介してであれ、人間の体への入り口、感染口は口・鼻だということであり、そこへ至る経路を遮断することがきわめて大事だということです。


【2】感染対策の考え方
1)「リスクを下げる」という考え方

感染を100%防ぐ方法は基本的にはありません。あるのは「こうすれば感染を起こす危険=リスクが下がる」というものだけです。

床に落ちた飛沫がついているかもしれないから足の裏を洗う、という方法よりは、人から渡されたファイルに飛沫がついていたかも知れないから手を洗う、この方が感染のリスクを下げる方法としては有効です。ウイルスの侵入口である口・鼻へウイルスを運ぶルートは手だからです。

2)リスクを測る

 今自分が置かれた環境はリスクが高いかどうか、状況にどんなリスクが潜んでいるか、それを考えた対策が求められます。

 「3密」はそれを表現したものの一つです。開放的な公園より、密閉されたカラオケの方がリスクは高いと言えます。大声で歌う、叫ぶライブハウスは飛沫が飛び交うでしょうし、強制的に吐き出された飛沫はより細かく浮遊時間も長いと言われています。そこに大勢の人がいればいるほど、人との距離が短いほど、リスクは高まります。

 それから地域のリスクも参考になります。

 どこから感染したか分からない感染者が毎日大量に発生している地域と、誰から誰に感染したか全部分かっている感染者、しかもそれがまだ少数名という現在のこの地域とでは、目の前の人からうつされるリスクには差があります。

3)対策は段階的に取る

 もしコロナのこの災禍が過ぎ去っても人々は1年中マスクをして、外出を控えて人に会わない生活を続けるでしょうか。「もしいたらどうしよう」と一生考え続けるでしょうか。

 感染対策は流行の状況に合わせてリスクを測りながら段階的に進みます。その時その時の相手に見合った対策で持久戦に向かうのです。


【3】諏訪中央病院のコロナ対策

 ここから当院の感染対策について説明いたします。

 以上を踏まえての内容になります。

1)個人レベルの防御

 手洗いが最も大事です。

一方、人との対面が病院の中の仕事の多くを占めますのでマスクを着用するようにしています。が、それでも手洗いが最も大事です。あちこち触った手に付着した病原体を洗い流すためです。そして「顔を触るな」と指導しています。人間の体内への入り口である口・鼻にウイルスを近づけないためです。

 手洗い、マスク、顔を触らない、が個人レベルの防御策です。

 カウンターには一時透明のついたてを置きましたが、ついたてで相互に飛沫を防ぐことはできても、カウンターのこちら側の職員はよくその場を離れて患者さんを案内したり書類を運んだりします。ついたての影にいる時だけお互いに守られても、そこを離れたらそれでリスクが上がってしまいます。そしてついたての下でやり取りされた書類や物品を触った手をきれいにしなければついたての意味がなくなってしまいかねません。

 ついたては取り外しました。その代わり、カウンターの職員は人との距離が近く(2メートル離れての仕事はむずかしいです)、しかも患者さんの顔より下にいることが多く飛沫を受けやすい形になりますので目をおおうアイ・シールド(目を大きく覆う眼鏡タイプのガード)をつけてもらうようにしました。

 最も厳しい防御をするのは、最もリスクが高い場面です。

それはコロナの患者さん、あるいはその疑いが強い場合に診察したり検査をしたりする場合です。熱が高くて肺炎を起こして咳をしているような患者さんのウイルスのバラまき方はものすごいからです。PCR検査を行う時には長時間ただよう、遠くまで飛ぶエアロゾルと呼ばれる飛沫より細かい粒子が出るのでとてもリスクが高くなります。

ここでは手洗い、マスクだけでは対処できません。高度のマスクをしてゴーグルにキャップ、長そでの医療用ガウンに手袋など装着して対面します。テレビでよく見る宇宙服を着たような格好に近いものがあります。PCR検査のあとは換気も十分に行います。

2)組織的防御

 地域の感染状況が変わっても上に述べた個人レベルの防御は変わりません。

 でも状況が変われば組織としての対応は変わっていきます。

 現在は例えば面会は一部制限(5月1日現在)にしていてまだ全面禁止にはしていません。ご家族に限り2名までとしています(ちなみに3月までは面会はフリーでした)。

 地域の感染状況からみて当地の患者さんのご家族に感染者がいるというリスクはかなりまだ低い段階です。でもその中にあってもリスクは少しでも下げたいので、健康チェックと体温測定はしていただきます。2週間以内に流行地へ行っていないかなど確認してから病棟に行っていただきます。流行地の都会から来たご家族については申し訳ありませんが当地に滞在していただいて2週間の健康状態の観察期間ののちに、とお願いしています。その間に都会の友達と会って食事した、となったらリセットです。

 最初から全面禁止にしなかったのは、やはり家族が会う、ということを大切にしたいからです。その重要性と、地域も含めた感染状況のリスクをてんびんにかけているのです。本日現在、てんびんにかけた結果が今の対応ということになります。

 このてんびん作業は毎日行っています。いずれ全面禁止にする日がくるでしょう。その時でも患者さんとご家族の交流のチャンネルはどうしたら作れるだろうかと今考えています。

 ドック・健診もほぼ同じ考え方です。

 健康チェックをしていただいて健診をうけていただきます(健診を受けるのに健康チェックが必要というのも変と言えば変ですが)。申し訳なくお帰りいただいたこともあり、そのことでお叱りを受けたこともあります。

 治療が必要な生活習慣病や、特に癌を発見する機会を奪うことはできるだけ少なくしたい、という思いと、感染状況のリスクとの、やはりこれも毎日てんびん作業です。そしていずれ全面閉鎖の時がきます。来年になって癌が見つかった、すでに進行していた、1年前に診断していれば、というケースが出なければいいなと思う段階です。

 外来については保健所や病院への電話をいただいて事前にリスクを測っています。感染のリスクが高いと見積もられる場合は通常のルートとは違う動線で診察に至ります。この見積もりの技術には実は高いレベルが要求されます。当院は感染症の専門医らがそれに関わって対応しています。

3)付随事項2点

 なお玄関・入口に手指消毒薬が置いていないのはよくない、というご指摘をよくいただきます。

 COVID-19の場合、手指消毒に最も適しているのはアルコールで、当院ではアルコール+そのアルコールがしばらく皮膚に残存するようにする成分+手荒れを防ぐ成分が混合された消毒薬を用いていて、それを玄関にも置いていましたが、供給量が減ってきたのと同時にボトルごとどなたかに持っていかれるという残念なことが起きて引き上げざるをえないと判断しました。

 手洗いと手洗いの間は無用にあちこち触らない+顔を触らないことで感染は防御できますし、洗面所などで石鹸と流水での手洗いで十分ということもあり置かずにおりました。

 それでもやはり置いてほしいというご意見をいただいて検討した結果、次亜塩素酸水を置くことにして現在準備中です。次亜塩素酸水は次亜塩素酸ナトリウムとは異なります。後者は効果の高い消毒薬でCOVID-19にも有効です。「ハイター」に含まれていますが人体には有毒です。次亜塩素酸水はそれと名前が似ているのですが、現時点では本当に消毒効果があるのかどうか確証がされていないのが気になるところです。しかし、いろいろなところで効果あり、と言われていることも確かですので設置することを決めました。それでもぜひ顔も含めて不用意にあちこち触らずに、機会をとらえて石鹸と流水で手を洗っていただければ幸いです。

 また「コロナ患者が入院しているのかしていないのか」という問い合わせもよくいただきます。それについては個人情報につながる情報ですのでお答えできません。また、患者さんが入院していてもいなくても、きちんと感染対策を行うことで、例えば外来受診された患者さん、入院中の別の患者さんにご迷惑をおかけするようなことにはならないようにしております。ご理解をいただきたいと思います。

 と同時にしかしながら全国的には「院内感染」が実際にはあちこちで発生しています。それだけコロナウイルスの感染対策は難しいのかもしれません。私たちは院内感染を防ぐ手立てを求めて、院内感染を起こしてしまった病院に関する調査報告等を通して教訓を生かそうと考えています。その調査の一つを行った先生をお招きした勉強会も計画しています。

4)新型コロナウイルス感染症対策会議

  (Conference On COVID Control=COCC 通称コック)

 諏訪中央病院では院長の指示により、副院長の私が責任者として対策会議が立ち上がっています。

 このCOCCはおよそ100名の職員からなり、コアメンバーを中心にして、救急外来や病棟でのコロナ診療体制、一般の外来やその他のさまざまな分野での対策、職員への教育指導、広報、地域連携、メンタルサポート、感染防御具の調達・管理・調整、ITの活用といったあらゆる分野にわたって職員が連携を取り合いながら対応を組み立てています。

 また市や保健所の関係者、医師会の先生方とも顔を突き合わせて地域の健康と命を守るためにできることを話し合っています。当面はいわゆる発熱外来をどうするかが課題です。関係者の皆さんと話し合う中で有効なしくみを作るのに少しでもお役に立ちたいと考えています。

 また地域の病院間の連携も大事です。諏訪赤十字病院や岡谷市民病院の先生方と話し合ったり、保健所へ伺ったりして連携の仕組みをいっしょに考えてきました。

 私たちはこうした難局でこそ、病気と立ち向かう地域の砦として全力で闘う所存でこのCOCCに結集して知恵と力を絞っています。


【4】今後に向けて

 ゴールデンウイークを経てこの地域の様相がどう変わるのか、その変化を予測し実際を把握し、そのことからくるリスクを測り引き続き対策を立てていきます。

現在は以下のようなことを想定した検討を行っています。

地域に感染が蔓延してくると、例えば救急車で運ばれてきた脳出血の患者さんが実はコロナにも感染していた、というようなことが起きてきます。地域の感染状況が進んで、目の前のどの方も感染しているかもしれない、というフェーズ・段階に至った場合、どういう対策を取っておくべきなのか、このことについて現在準備をしているところです。

 諏訪中央病院では以上にお話ししたように考えて対策を行っています。

 カウンター越しの業務での対策の勉強会をしたあと、ある職員が「とても不安だったけど話を聞いてかなりそれがやわらいだ」と話してくれたことがありました。


 今回のこのような発信をさせていただくことで、地域にお住いの皆さまにもご理解とご協力をお願いしたいと思います。

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